築150年!醤油醸造の歴史を伝える資料館「旧栖原家住宅-フジイチ-」の裏側。

築150年!醤油醸造の歴史を伝える資料館「旧栖原家住宅-フジイチ-」の裏側。

令和4年にオープンした醤油醸造の歴史を伝える資料館「旧栖原家住宅-フジイチ-」
湯浅町の新たな観光名所となった旧栖原家住宅について、一般公開されるまでの一大プロジェクトの裏側が気になった編集部のあいりが取材しました。

こんにちは、編集部のあいりです。湯浅町の伝建地区内にある「旧栖原家住宅-フジイチ-」にやって来ました。

「旧栖原家住宅-フジイチ-」は湯浅町の中でも屈指の醤油醸造家、山形屋久保瀬七(やまがたやくぼせしち)によって明治7年に建てられた建物で、昭和57年に廃業するまでの約100年余り醤油を醸造した醸造施設でした。

※「フジイチ」の由来
フジイチは屋号の呼び名。(富士)山に一、と書く屋号から。この屋号は、明治に建てられた当初の久保家の頃からここの醸造所の屋号として使われていた。

築150年である建物は明治初期によく見られた建築の技法が随所に散りばめられているんです。

平瓦と丸瓦を交互に並べる「本瓦葺(ほんかわらぶき)」の屋根や、

重厚感のある漆喰塗り(大壁仕上げ)が印象的な「外壁」

目隠しと風通しの役割がある「切子格子(きりこごうし)」は、外から中が見えにくい構造になっているんです。

縦の格子が等間隔に並んでいる様子が虫籠のように見える「虫籠窓(むしこまど)」も発見!

玄関から中に入ると出迎えてくれるのは約9メートルの屋内通路である「トオリニワ」

ダイドコロ上部には大きな吹抜けがあり、

奥に進むと文庫蔵と穀庫及び容器庫からなる2棟の土蔵(どぞう)がありました。

中でも文庫蔵は大事なものを保管していたため、二重構造の屋根になっているんです。

その他にも歴史を感じる柱や壁、

さて、ここで施設のスタッフである木下 智之(きのした ともゆき)さんに旧栖原家住宅についてお伺いしました。

旧栖原家住宅の展示に関して、一番こだわっているポイントはどこですか?

誰でも目で見て簡単に当時の様子がイメージできるような「分かりやすい展示方法」にこだわっています。最近は外国人のお客様に向けた英語表記を充実させたり、読みやすいキャプションを付けて展示品の説明を充実させることにも力を入れているんですよ。

展示方法も以前より見やすくなりましたし、新しい展示物も増えましたよね。

そうなんです。まだ展示しきれていない展示物も保管してあるので、少しずつ入れ替えながら来た人に楽しんで観てもらえる工夫をしていきたいですね。

旧栖原家住宅の中で木下さんが思う一番の見所はどこですか?

私が気に入っているのはダイドコロの吹抜け空間と、「前庭(まえにわ)」ですね。特に前庭は一番大好きな場所で、畳に座りながら庭を眺めると落ち着くんですよね。きっと日本人なら皆、ホッとする瞬間じゃないかと思うんです。

展示品の中で木下さんが思う、特に興味深い貴重な品はどれですか?

展示物の中で面白いなぁと思うのは、「野風炉(のぶろ)」と呼ばれる屋外で酒の燗(かん)をする道具で、現代で言うアウトドアグッズの一つだね。

家庭用アイスクリームメーカーも面白いよ。アメリカのホワイトマウンティン社製で、手動でアイスクリームが作れる機械なんですよ。こんな機械を明治時代に使っていたと思うと面白いよね。

実際に展示品を観に行きたいと申し出た私を、木下さんが親切に案内してくれました。

これは「卓上コンロ」
取り外し可能で、熱燗を温める機能まで付いてるんですよ。中に炭を入れて火を付けるんです。

この醤油瓶も特徴的で、これは一升瓶(1.8リットル)ではなく2リットル瓶なんです。昭和元年~平成6年頃までは醤油瓶は2リットル瓶がメジャーでした。

一升瓶だと思っていました!見た目には分からないですね。

こちらは輸出用に使っていた醤油瓶で、「コンプラ瓶」と呼ばれています。
コンプラはポルトガル語のコンプラドール(仲売人)が語源で、鎖国の江戸時代に長崎・出島から醤油や酒を輸出する際に使われていました。

この「栄重(さかえじゅう)」は近所にお裾分けする際に使われていたんですよ。

現代で言うタッパーですね!ご近所にお裾分けする日本の古き良き文化を感じることができて、なんだか嬉しいです。

この桶は「すまし桶」と呼ばれていて、醤油を冷ますために使われていた桶なんです。火入れして熱くなった醤油をこの桶で冷却してから瓶に詰めていたんだと思います。

展示品を見学した後、「ナンド」と呼ばれる衣類や貴重品などを収納していた、今でいうクローゼットのような部屋に案内していただきました。

旧栖原家住宅には元々使用人である職人さんや家事をする女中さんが住んでいたので、あらゆる所に家主の居住スペースと共有スペースを区切る造りが施されているんですよ。中でも特徴的なのはこの「蔀(しとみ)戸」で、この戸もプライベート空間である「ナンド」に使用人が出入りしないように使われていたと考えられます。

シェアハウスのような空間だったんですね。面白い…!今なら鍵をかければ終わりだけど、昔の人は生活の中で様々な工夫をして暮らしていたんですね。

取材の締めくくりは、オープン当初から話題になっていた「VR体験」
当時の醤油造りの様子が鮮明に再現されていて、タイムスリップしたような不思議な感覚でした。VR体験中に登場する湯浅弁の男性キャラクターがユーモアを交えて案内してくれるので、醤油の造り方や歴史を楽しく学べましたよ。

取材を終えて

私が一番気に入った旧栖原家住宅のスポットは「帳場(ちょうば)」
番頭さん気分でフジイチの法被を着て記念撮影できると聞いて、早速撮影してみました。
法被は大人用と子供用があるので、家族連れの方にも大人気なんだそうです。

時間をかけて観れば観るほど、発見があった旧栖原家住宅。
取材をしてみると、まだまだ進化を続ける期待の詰まった資料館でした。
「古いままのよさを残す」ことで後世に町の歴史を伝え続けるために、
私たちはこの建物を守り続けていく使命があると感じました。